考え方を改めました

 落とし所というか、着地点が見えない、というか着地点を見ない人たち相手に、自分だけ着地点を考えても仕方がないなと思う。
 生き方の問題なんだろうな。着地しないで、その場しのぎで、その場その場気持ちよく、気分が良ければそれでいい人たちが世の中には一杯いるんだなと良く分かった。
 ルールはある。でも、ルールの外側にまで現実は存在している。ルールは人工物であり、現実は自然物であり、自然物は人工物よりも常に外側にまで存在している。
 それならばルールを広げてルールで管理できる状態にすこしずつ変えていこうという着地点を見た議論をしなければならないのに、ルールがあって、その外側は『有り得ない』とする。
 日本に置けるルールというものは、そうやって運用されているのが現実なのかも知れない。
 『有り得ない』ということが一度でも起きたらルールは崩壊し本当の無法が始まるのに、現状のルールがあることに安住し、ルール遵守だけを言っていれば何とかなるとその場の気分だけの人たちが現状で『有り得ないこと』がない単なるラッキーだけで暮らしている。

 

法案作成と省庁官僚制

法案作成と省庁官僚制

 この本は阪神震災でそれまでの法律では有り得ないはずの都市大地震の復興のために有り得ない災害を災害関連の法律を作ることで措置しようと動いた官僚の話である。
 でも、これはまだいい。復興しようと皆していた。復興した神戸を皆思い描いていた。
 本当のトラブルは、どちらも解決の方法と解決した形を何も思い描かず、その場の『怠惰』と『憤激』だけで動いているような問題である。

 こういう感情が交じる問題は、放射性廃棄物と一緒で、半減期がたつまで封印するしかないんだと思う。
 待つことも、戦術のうちだ。

■オンライン小説『ぱぱのでんしゃ』発売!

 原稿は309.5枚で終了。

 創業者一族の不祥事で経営危機に陥った新宿から西へ延びる大手私鉄・北急電鉄。
 経営改革に金融グループ・つつじホールディングスが送り込んだのは、北急の鉄道事業廃止を計画したリストラ屋・樋田という男だった。
 社長となった樋田は、即座に経営陣を刷新し、鉄道事業廃止に着手する。
 鉄道員たちはリストラに必死に抵抗するが、樋田にとってはそれも想定内だった。
 着々と準備の進むリストラ。
 しかし、資産評価のやり直しのために鉄道の現場に赴いた樋田の目にしたものが、破綻しかけた鉄道に奇跡を起こす。

「三番線に列車が参りま〜す。黄色い線の内側でお待ちくださ〜い」
 小学生の子供が鉄道模型、Nゲージの電車を手で走らせながら一人で遊んでいる。
「ただいま」
 彼がこのマンションに帰ってきた。
「お帰りなさい」
 彼の奥さんが食事を作りながら玄関に帰ってきた彼を迎える。
「勇太、遊んでたか?」
「おとーさん、おかえり〜」
 勇太と呼ばれた彼の息子の手の中の模型を見て、彼がちょっと悲しい顔をする。
「なんだ、またやっぱりうちの会社の電車じゃないのか。この前、ウチの会社の新車の模型買ってあげたのに」
「だって、パパの会社、北急線の電車は格好悪いもの」
 子供が訴える。
「そんな事言うなよ。ちゃんとデザイナーさんが頑張って設計したんだから」
「でもネットじゃ『汚物』って呼ばれてるよ」
 子供というものは、いつの時代でも残酷だ。
「ネットはネットだろ。せっかく誕生日に買ってあげたのに」
「買うんだったらJRの電車のほうがいいもん」
「あれはあれで問題あるけどなあ」
 彼はそういいながら、今日一日の乗務で着た制服を洗濯カゴにだし、通勤用のシャツを脱ぎ、Uクビのシャツでグッタリとソファに座ってテレビに目を転じる。
「ちゃんと着替えて。いまのパパたちは子供の前でそんな格好しないって。きちんとしないとマンションのなかで悪く言われちゃうわよ」
「いいじゃんか。俺の父さんもこういう生活だったんだから」
 彼の父も鉄道員なのだ。
「だからといってあなたもそうしていい訳じゃないでしょ。きちんとして。着替えあるんだから。時代は変わったのよ」
「時代が変わった変わった〜」
 子供がはやす。
「もー、うるさいなあ。日勤明けなんだからさー、もうちょっと暖かく迎えてくれよ。今日の行路だってきつかったんだし」
 彼はため息を吐く。
「勇一は?」
「塾。まったく、可哀想よね、今の子供って」
「いいじゃんか。日曜日は撮り鐵させてやっているんだから。それに、人間は一生勉強だよ。きわまるなんて事は有り得ない。極意というのは、駅への停車にせよ」
「またお父さん始まった。はい、いつもの発泡酒買ってきたわよ」
「たまに別のが飲みたいよ」
「今は水より発泡酒が安いとはいえ、やっぱり苦しい生活なんだから、我慢してよ」
「そんなにお金がないのか」
「えー、ウッソー!」
 彼女は食事の用意の手を思わず止めて叫んだ。
「先月、奮発して鉄道模型買ったじゃない! あれでかなり苦しいのよ! もうっ、どうしてあなたの家の男たちって金銭感覚がないの?」
「もっと稼いでると思ったんだけどなあ」
「あなたの会社も苦しいのは分かりますけど、私もパートでくたくたなんだから」
 そのときだった。
 テレビのニュースが流れた。
『北急線、北部急行電鉄の不祥事の話題です。北部急行電鉄の株式上場廃止に至った疑惑ですが、ついに同鉄道グループのかつて筆頭株主だった四橋信氏および四橋一族の支配を離れた北部急行電鉄の経営に大手フィナンシャルグループ、つつじホールディングスが経営者を送り込み、大規模な経営刷新をすると同グループCEO前川幹二氏が記者発表しました。
 同鉄道の不祥事をきっかけに明らかになった問題について、前川氏は抜本的な『聖域無き経営改革』を通じ、不良債権の回収と経営の健全化、さらには鉄道としての北部急行電鉄のありかたも検討すると述べました』
「あなた」
 彼女は絶句している。
「ああ。うちの会社だ」
 北部急行電鉄、北急線の運転士である彼、市ノ瀬透(いちのせとおる)は、テレビを見つめていた。


「失礼します」
 重役室に呼ばれた男は、樋田英昭(といだひであき)といった。
 胸にはIDカード、傍らにアタッシュケース、三つ揃いのスーツは、彼がフォーマルな装いを守る堅実ながら勇敢な経営者であることを全身で物語っている。
「入りたまえ」
 重役室の中で、CEOの前川が答えた。
 つつじホールディングスの経営陣がそろっている。
「みなさん、これが我が投資グループで不良債権を処理する点で特に優れた男、お話の樋田です」
「ほう、君かね。リゾートホテル『鰺が崎シーワールド』の奇跡の経営転換の」
「恐縮です」
 樋田は頭を下げた。
「人員を半分に圧縮、半分をリストラし、その残りの半数も派遣スタッフに切り替えた」
「優秀な首切り屋……いや、これは失礼。しかし、人員削減は容赦なくやらねば効果がありませんからな。事業についての妙な愛着だの企業文化だのを引きずっていては産業の経営改善は望めない」
 つつじホールディングスの経営陣は言う。
「仰るとおりです」
 樋田は承った。
「シーワールドの状況を見た上で、君にこの北急電鉄グループの経営改善ができるというプランも検討した。
 喜びたまえ。君の案が採用だ。早速北急電鉄の新社長としてプランを実行したまえ」
「ありがとうございます。この樋田、粉骨砕身の覚悟で努力します」
「よく言った。頼もしい言葉、期待している」
「喜んで」
 樋田は一礼した。

 樋田の出て行った重役室で、ささやかれる。
「しかし、あの男にできるのかね。四橋一族は鉄道経営から事業を広げ、日本全国を開発した大鉄道王だ。北急電鉄はその中心、四橋一族に個人的な忠誠を誓った社員も多いと聞く」
「大丈夫だ。樋田には人間の最大の弱点がない」
「なんだ、その弱点とは」
「『情』だよ」
「ほんとうか」
「ああ。使っていて思うよ。恐ろしいほどの残酷な男だ」

 ユキさんの挿絵もつけて300円です。
 今回は全年齢OKです。ママンも安心やね。
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 よろしく。