プリンセス・プラスティック・プレミア販売
プリンセス・プラスティック・ハヤカワ版の『ハリアー・バトルフリート』以降の作品をウェブで先行プレミア販売します。
+■#6『デカップルド・ディフェンス』
シファとミスフィの周りを囲む人々、そして22世紀世界が、クドルチュデスによる激烈なSAISクラックのあとにも続く。
2143年の正月を迎えたシファとミスフィに、再び護衛任務が課せられる。月での資源開発を巡る国際会議に出席する外務省北方対策課課長を守る任務だが、実はその裏で、2年前に起きたクーデター未遂事件の首謀者とされ、宇宙都市に幽閉されているマリアス・カシス准将の影がうごめく。香椎とケイコもその実態捜査のために密命を帯びて宇宙へ。ラッティは失われたが、しかしクドルチュデスに関わった『助教授』がラッティの遺志を継いでシファたちを攻める。
+■#7『ナウト・ナウト』
講談社版『プリンセス・プラスティック・母なる無へ』の再刊・改訂版。
アメリカ・ヘブンズドアから新淡路へ向かうSSTOに核爆弾が仕掛けられ、新淡路市に突入すべく、SSTOの機内全てのシステムが乗っ取られた。
その乗っ取りの解除に迎えるのはシファとミスフィだけ。
シファとミスフィを追い込む悪意の影が次第に明らかになる。
シファとミスフィ、思わぬ窮地に。
+■#8『プライマリー・プラネット』
窮地を脱したシファとミスフィ。
そしてついに悪意が姿を見せる。
BN−X予算償却問題が国会で議論されることとなった。激烈な政争、政官財の全ての世界を揺るがすシファ級BN−Xの建造予算の償却。しかも、それは永遠の命を持ちながら、永遠に人類に奉仕すべく作られたAIたちに甘く呼びかける悪意、サルヴァス計画の疑惑もシファたちを襲い、AIと人類の間に立ったシファたちは苦しい立場となる。
苦悩する松田総理。
しかし、悪意は余りにも強かった。
シファとミスフィはついにオーストラリア廃棄物施設に永久保管となり、母艦〈ちよだ〉のクルーにも新配置が発令されようとしている。
だが、思わぬ新たな仕事に就くクドルチュデスが、この政治劇の真相を発見する。
シファのフィアンセ、鳴門調査官が必死の捜査を行いながら、この悪意の目指した世界の究極の合い鍵、デュプリケートキーを巡る争いが明らかになる。
今後紙媒体で再販の可能性もありますが、まず『プリンセス・プラスティック』の方向性を検討するために公開します。
『プライマリー・プラネット』は特にプリンセス・プラスティックシリーズの大事なキーストーンですので、これがうまくいっていないので他のプリンセス・プラスティックシリーズが停滞しています。
あと停滞になっているのが『フォートパープル』。これもプリンセス・プラスティックの21世紀パートで牧山佐生を書くというところで停滞している。これもなんとかしたい。
プレミア販売のロゴができたけど、プレミア用の改正がまだ。なんとか今の水準で強化したい。
『いずれ人類は時間旅行を可能にする。時間をすべての生命が共有出来る情報の蓄積に変換する動きは、すでに議論されている』
カシスは言った。
『議論はされているのは知っています。でも、それにどの程度の確証が?』
シファが興味を示す。かつて、月のホテルでクーデター未遂の嫌疑をかけられ幽閉中のカシス准将は、幽閉された宇宙都市からホログラフィ画像を送り、シファたちと会食している。
もちろん違法だが、外交官僚・宇津居麻里第4調査課課長が特例を発動したのだ。
『その議論はあなたとは出来ないわ。あなた自身がいずれ直面する中であなた自身で解決し、理解していかなくてはならない。
いずれ時空管理機構があなた達へアクセスを許可するでしょう。しかし、それは慎重に審議された後のことになる。
この世界の文脈を崩さないための配慮に、未だに結論が出ないからあなた達には知らされていない』
静かにカシスは答えた。
『文脈?』
シファは首をかしげる。
『古い話になるけれど、人々が高精細デジタルメディアを手にしたとき、『現実と虚構』の問題が起きた。
リアルであるか、アンリアルであるか。
その中で『真実など存在しない、事実があるだけだ』と喝破した人がいたけれど、今はまさしくその通りになっている。
人々が肉眼の情報を脳磁計経由で共有し、さらに不正な手段を使えば他者の記憶すら書き換えることが出来るのが今。
その中でこの究極の情報世界での執行は、唯一、それを正しいと思う人が便宜的に多い文脈だけ。
正義もその正義たらしめる論拠がここまでがたがたであれば、結局はさまざまな力の執行も当事者のあやふやで曖昧な『それっぽさ』で信じる文脈の中でしか判断出来ない』
『極端ですね』
カシスの論議をシファは少々不快に思いながら返事をする。
『しかし、そうでしょう? 大昔はテレビと呼ばれていたメディアは百のチャンネルがあればいい方だった。
それが、かつてのblogとメディアの融合した媒体によって、一つの事件は当事者とその場にいた幾人もの証言者の眼と耳、そして感覚によって記録され、膨大で柔軟で流動的なグリッドという書庫に納められ、共有される。
今はその書庫の大きさが事実に即したものと、そうでないもので四桁以上違うから、ねつ造を判断することが出来る、ように思えている』
カシスは続けて答えた。
『しかし……ということは、国家的な傍受システムや検閲システムが関与する隙がありますね』
シファは言う。
『国家だけじゃない。企業、学校、宗教、家庭、個人……すべてが情報をフィルタリングと言いながら検閲し、気に入らない情報と有害な情報の区別を曖昧にしたまま無視し、逆に針小棒大に拡大している。
その中で、機械でも生命でもないエージェントが膨大な処理をしながら、ある方向を目指し始めている』
カシスは微笑んだ。
シファはカシスの言わんとすることを理解した。
究極までの相対主義だ。
『さすが近江のプロダクトね。あなたはもう一つの真実にたどり着きつつある』
カシスはシファを見つめた。
『私は認めません』
シファは抵抗した。
『この世界は実在します』
『実在・虚構は区別の必要が無くなる。あるのは、『それっぽさ』だけ』
カシスは言う。
『でも、私はここにいる』
『いない可能性もあるわ』
『います』
シファは決然として言葉を結んだ。
『あなたはここで結論したわね。いいわ。あなたはそう思い、信じることを選んだ。でも、その道は厳しい。今、あなたの中には、確信と、それを上回る不安と、疑念があなたの心の中にあるはず』
『いえ』
『本当?』
言葉を戯れるカシスに、シファは言った。
『准将は、誰かを好きになったことがございますか』
カシスの手が止まった。
『いい反論ね。それは確かに正しい反論ではあるわ。
好きになることと、好き合うことはこの極端な相対主義に絶対的な支点を与える。
一人の命は一つの宇宙でもある。その宇宙同士は永久に分かり合えない。
でも、分かり合えると信じるところから、好き合うことが真実味を帯びてくる。
信じる人は美しい。美しくて愚かね。でも、愚かであることをあなたは選んだ。
それは、私が異性に対して恐れている事への反論でもある』
――文脈から導かれる『それっぽさ』で構成される社会の中、個人も生命も、もはやイメージとして蒸発していく存在に過ぎない。
ならば、『それっぽさ』さえ確保できればいいのなら、実体など要らない――
それがサルヴァス計画の恐ろしい理論だ。
とりあえず、特報と言うことで。