道真を書いた感想
道真を描いていて思ったこと。
言葉を使うことの敷居を下げようと技術は進歩してきた。
かつてPCは英語でないと使えないと言われていた。
Webも英語必須と言われてきた。
でも、結果その障害がクリアされたのと同時に、現実と妄想が区別できなくなった。
その結果があの送金指示メール事件だったのだろう。
くだんの永田議員自身が象徴的だ。懲罰動議をあれだけ受けてもいまだに政治生命なんて抜かしている。もう生命を断たれて当然ぐらいの馬鹿な行いなのだが、結局同レベルの人間がうじゃうじゃといるのだから辞職させられないでいる。
もう恥とか、『ここまで言ったら相手が可哀想だな』という心すらない。
『小僧の神様』のエンディングで志賀直哉は『ここまで書いたら小僧に余りにも可哀想なので』と敢えて物語を書ききることよりも、扱う心の痛みに心を配った。
ところが、いま心を配るといっていた気配りの鈴木元アナウンサーのやっていることは、気配りのススメのハズなのに一番人を傷つける言葉の揚げ足取り、ケチ付けになった。
言語は生き物であり、どんなにいやな使い方であっても、それが定着すればその言語のありようなのだ。
まあ、言いたくはないけどさ、『国家の品格』という本は、もう呆れるほどの品格のなさだと思う。だって、本当の品格がある人は、品格を言わないもの。天皇陛下を品格があると言ったら馬鹿かと言われるでしょ? それだけ世の中が下品になったと言うことだ。
私は悲しいよ。
日本は特殊な面を持っている。でも、それはどの国も持っている国柄である。ここまではいい。だが、それだけを主張するのは余りにもイージーすぎる。心を、知性を高めるとは、違うことを認め、違う自分はどうあるべきか、どう周りと協調していくか、自分を調整していくことだろう。
それを一言、品格だのお国柄だのと言って思考停止するのは誰でもできることで、まあ世の中そういう当たり前のことが当たり前でないから、昔『一杯のかけそば』で涙したり、『アメリカインディアンの教え』に感心していたんだろうな。
柔軟に考えることができない。何かというとキレる。何かというと自分を見失うほどカッとする。
世の中に段々余裕が無くなってきたんだろう。落ち着いて考えれば、べつにどうということのないことばかりなのに。そんなきりきりしたところで、現実はそうそう簡単には変わらない。でも、それに苛立ち、言葉に言葉をぶつけて過激になっていく。
菅原道真の時代、文字を書くことが珍しかった。紙も珍しかった。だから、後世の史家には、道真の書き残したものから道真を論じるのは当然だが、しかし道真だってそれを書いていた時は人間だったのだし(後に天神様になるとしても)、道真だってイラッとすることもむかつくこともあっただろう。
だが、史学研究のはずが、些細な書きすぎを取り立てて『教育者としては狭量だった』などというのはどうかと思う。
それじゃ道真は書き損ではないか。当時生きていて文を残さなかったものがどうだったかを類推して考えればいいのに。
そういう書き損を生むから、昔から今まで皆名無しさんでいたがるのだろう。永田議員も、こうなるまではほとんど名無しさんだった。
このごろ世に流行るもの。名無しの書き捨て書き恥のかきすて。
ホント、言葉を書いていて悲しくなる。なんだか世の中にも余裕がないし、自分の書いていることに責任を持とうという気持ちすらない人々が多すぎる。
まあ、私も恥ずかしいことを書いてきたし、絵も恥ずかしいモノもある。でも、それは私の歴史だ。私につながるモノだ。だからそのままにしている。自戒のきっかけになることもあるのだし。
でも、このウェブの匿名性というのができて、完全な匿名はないのに書き捨てが本当に増えた。凡庸なくせにつまらぬケチを付けて、さもクール(私の大嫌いな言葉)であるかのように思っている。
見ていてこっちが恥ずかしい。ウェブの匿名性は、名無しと呼ばれる人々を生むと同時に、彼らが人間的に成長する可能性を完全に奪ってしまった。
これはものすごい損失だと思う。
成長すると言うことは、甲殻類が脱皮するぐらい苦しいモノだと思い知らされている。
自分には、いつの間にか殻ができている。それを脱がなくてはならない。
それは苦しい。辛い。何もそこまでせんでもと何度も後悔する。
でも、その脱皮ができて、その脱ぎ捨てた殻を見た時、ああ、これで良かったんだと思える。
ところが、世の中にはその脱皮することのない人々が大勢いる。
まあ、それは仕方がない。凡庸な人たちはそれしかない。
ただ、そう言う人たちに。
いずれ、脱皮しないといけなくなりますよ。
この世の中、そんなに変化無しで生きていけるものじゃないですから。
道真は天神さまになったけど、私の小説の中では、それに近い結末になることにした。
しかし、はたして天神さまは、平成のこの粗雑な言葉の氾濫についてどう思うのだろう。