宙組和央・花總退団公演

 を観ました(29日)。
 宙組はまだ見続けられる感じ。もうトップとか2番手・3番手という時代ではないのかもしれない。中盤の生徒の迫力のある、ときに地鳴りのようにも思える女声コーラスがすばらしい。


 久しぶりの東京宝塚の公演が和央・花總退団公演。
 ついに宙組も世代が入れ替わる。姿月・和央ときて今や湖月も他組に転出してトップとなり、中盤層が育っていたかどうか、宝塚の運営上の問題であった質の変化、特に一時期歌劇ではなく話劇であると言われたほどの水準低下、その結果の一時期のクローズした公演すらあった宝塚低迷期に起死回生の策であった宙組結成の真価が問われる。
 姿月という希代のトップ、そしてその比較となってしまいながらも奮闘した和央は十分に役目を果たしたと思える。エリザベートでの好演が光った湖月も転出。宝塚全体の底上げは今の時点で少しずつ出来ていると思う。
 だが、この次の公演はもうご祝儀もひいき目もなくなる。まさに劇団全体の総力であたらないといけない。
 まずはその新たなる時代の予兆を感じようとしつつ、さよなら公演を見る。果たしてシヅキさよならの「GRORIUS」のような感動と未来への希望、別れの寂しさと文字どおりの有終の美があるかどうか。楽しみである。

 で、見終えた。
 トップはこれまでの希代のトップではなくなる。しかし、それはこれまでがあまりにも希代過ぎたのだ。大和悠河はがんばっている。真矢みきとかの線には並んでいる。しかし和央は天海級のトップでさらに格上で、その上のあの人までいたから宙組はすさまじかった。
 だが、それを毎回望んでいてはいけない。その点今回の公演では中盤層のコーラスがすばらしい。ますますさえわたる歌声。りりしく、清らかに、それでいて時に地鳴りのように。すばらしい。
 大和悠河は毎回良くなっているのだが、しかし満足の域にはまだまだ。声量と音程がどうにも。でもがんばっているのは伝わってくる。通常の宝塚スターとしてはもう及第なのだが、宙はあまりにも希代の人が続いたので、つい厳しくなってしまう。すまない限りである。
 あと、悪役を演じた遼河はるひがこのましい演技。コテコテの悪役ながら、しっかりおかしいところ、ゆがんだところを示している。のびのびとやっていた。
 しかし全体としてしのびよるファシズムの描写は、まさに小池修一郎演出のすごいところ。
 こう考えてみると、宙組はもうトップが誰とかで人を呼ぶのではなく、宙組を見に来てほしい、というように変質したのだろう。組の総合力を生かすやり方、少人数の才能にのみ頼ったやり方ではなく、すべてのキャストがそれぞれ工夫し、その総合ですばらしい舞台を作る。それはまさに宝塚版RMAと言っても過言ではないかもしれない。
 和央と花總の退団ということでしんみりを一瞬期待したのだが、今回の舞台は劇中の『NEVER SAY GOODBYE』を引用するのが一番正しいだろう。

 さあ 見てごらん 夜が明ける
 海を紅く染め
 この世界が たとえ暗闇に閉ざされているとしても
 いつか朝日が 差し込む日が 訪れる
 僕らの力で 闇をはらそう
 だから言わない サヨナラは
 生きることの意味を求め
 今日までさまよってきた
 まだ探そう 僕の進む道
 どんなに長い道のりでも 構わない
 僕らの時代は 今始まる
 だから言いはしない サヨナラは
 NEVER SAY GOODBYE

                                     (NEVER SAY GOODBYE)

 すばらしい曲であるが、まさしくこの通りなのだ。夜が明けるのだ。だからサヨナラは言わないのだ。
 でも、さよなら。
 魂は永遠だと私は何度も書いてきたけれど、でも宙組でも宙組の魂は永遠なのだ。
 そして今、現実の世相を見ると、ファシズムコミュニズムと資本主義のような対立ではないが、しかし対立は存在していて、しかも多数の凡庸な人間によってアンディ・ウォーホールの予言の『15分間なら誰でも有名人になれる』というメディアのどうしようもない悪用が続いている。テロもそうだし、ウェブでの吐き気がする凡庸な人々の皮肉や言い捨ての跋扈を見ていると、暗澹たる思いである。
 だが、夜が明けるのだ。僕らの力で闇をはらそうなのだ。
 どんなに長い道のりでも構わないのだ。
 
 すばらしい歌である。小池修一郎はこういうところの演出に、かならず現代になぜこの劇をやるかというスケープがちゃんとあるのだ。そこが宮本亜門とともに他のミュージカル作家とは一線を画すところだろう。
 すばらしい。

 帰りはロマンスカーカフェでシェーキを飲んで休む。昔特急降車ホームだったところにあったベンチが工事で使えなくなったので、特急ホームの車止めのホーム側にカフェコーナーを作ったというもの。発着する列車を見ながらの飲食。小田急良い商売だなあ。
 帰宅は『あさぎり』7号(371系充当)。写真は先頭から7列めから見た前展望。展望席の設定はないけど、実質的に展望席。バブルのころの良いつくりである。

 昼食は銀座リプトンティーコーナー。久々に満腹。美味しかった。ユキさんも久々のバイキング形式に『火の7日間(ナウシカ)』のように食べたと言っていた。