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救急精神病棟

救急精神病棟

 良いです。目配りもしっかりしているいいノンフィクションです。特に救急精神病棟に携わる人それぞれの声が生きている。精神科病棟の鉄格子が、ポリカーボネートの窓にして格子をなくすと急性期の患者の排泄物の匂いがこもってしまい、空調で対応しきれないお出会えて自然通気にするために格子にするが、格子を優しくデザインするとそれはそれで怪我のもとになるという話。
 あと、家族の厄介者が措置入院となって、家族がもう出てこないで欲しいという事で入ってから何十年も入院を続けている収容所と化した精神科病棟の『沈殿患者』の話、かといって司法と医療の間で扱いがはっきりしていない触法精神障害者の話、極めつけは沈殿患者を収容する精神科入院施設の経営は『牧畜と同じ』と言ってのけた医師会会長と、医者だけど精神科をバカにしている医者とか、非常に現在の精神科の問題を緩急混ぜながら書ききっている。
 特に私の場合、アルコールも2日に1回1杯のミニグラスにワインとかの状況で、タバコもしないパチンコ関連ギャンブル関連もやらないけど鉄道模型趣味の人間としては、自分の統合失調症がどう悪くなっていくか、ちょっとゾッとした。まあ、今の状況で仕事を徐々に増やしていけば大丈夫なのだが。
 医療観察法案についての批判もある。結局、統合失調症の患者にとっては、暴力を働きたいというのはない。それは精神病質とかいわれるもので、統合失調症の場合は『怖い』のだ。誰かが自分を殺そうとしている、あるいは死ねという声が聞こえるとか、そういう恐怖にかられて、生きようとして必死になるけれど、それが失調になっている。
 だから恐怖が幻覚や幻聴体験をする。
 でも、統合失調症にはいまは良い薬もあるし(私はハロペリドールだけど、もっと良い薬があるらしい)、制御して生きていくことも可能だと言うこともあった。
 ブラックジャックによろしくにもあった。精神科患者は危険なのかという問いは、糖尿病患者は危険なのか、ガン患者は危険なのかと同じ次元でしかないという主張。
 統計的に見ても、統合失調症で触法というのは他の疾患と比べても特に多いわけではないし、それに詐病、嘘で病気のマネをして罪を逃れようとしている例も多いという。
 そんなのは医者が診ればきっちり分かるのだが、それには少しだけ時間がいる。今は制度的に未整備で2時間とか3時間とかしかかけられないけど、1週間、2週間と観察すれば嘘はすべてばれるという。それ以上時間を費やす必要もない。
 司法と医療の中間にあって、医療を受けさせるべきか刑事罰の対象として起訴すべきかの判別を行うために一時受け入れるセンターのようなものが必要だという提言の趣旨はなかなか明快であった。