引くも地獄、進むも地獄

 亀井静香自身、それほど話の分からない人ではなかった。『すすぬ電波少年』(当時は『すすめ電波少年』)でこのネクタイをして国会に出てくれと言うと応じたし、静香とデュエットというと本当にデュエットしてくれた。若い人の気持ちをつかもうと頑張っていた。
 また、オウム地下鉄サリン事件では当時運輸大臣で、関越道を下っているときに事件の一報を受け、部下に今すぐUターンしろと叫んだほどの熱血漢である。もと警察官僚であり、警察官僚と言えば旧内務省直系、その下の公安警察は今でも選挙の予測を密かにしているらしく、ほぼ正確に、マスコミよりもシビアに予測するという、日本に今存在する数少ない情報機関である。
 今回郵政民営化に反対したのも、若き郵便局員の気持ちや、郵便関係者の生活を考え、その上でやはり一つトップにならなければこの閉塞した世の中を変えられないと覚悟してのことだろう。野望もあれば情も覚悟もある。少なくとも民主のアホ議員よりは事情を知っての上の決断だろう。
 対して小泉総理は平成維新の推進者である。様々な改革はもともと橋本元総理のころに計画されながら橋龍は頓挫、しかし小泉は小泉KGBともいうべき情報網で次々と反対派を駆逐、郵政民営化は今の問題だが道路公団民営化は猪瀬直樹不良債権処理は竹中平蔵、防衛問題は石破茂という論客を使ってほぼ解決の目処がついている。もちろんその結果泣いている人、路頭に迷う人もいるが、本当に日本という国が破綻してからでは再就職、立ち直る基盤もなくなってしまう。その覚悟で立ち向かっている決断は、これまた夕刊紙の叩くような次元ではない。
 まさしく平成維新とも言うべき現状で、抵抗勢力という明治維新で言うならば不平士族を巡って、その気持ちを代弁する西郷隆盛と、気持ちを分かりながらそれでも決断した大久保利通西南戦争のような状況かもしれない。
 今回自殺した議員は、そのどちらも分かったのだと思う。なんとかしたかったのだろう。だが、ウツ病とか精神系の傾向を持つと、そういう気持ちが反転して自分を攻めてしまう。特に解決できそうな兆しが見えた瞬間、嗚呼自分死んじゃっていいや、と思ってしまう瞬間があるのだ。
 何とも痛ましい。政治とは形を変えた戦争であるという話をたまに聞くが、まさしくNステの頷きオヤジがぐだぐだ言える次元ではない、政治家、代議士という仕事の厳しさに今一番みな苦しんでいる状況だと思う。
 甘い話ではないのだが、こうなればなるほど、本当に苦しんでいる人々とは別にマスコミや一部認知症議員の『わかりやすく』には国民は苛立っているようだ。
 6カ国協議では拉致問題を取り上げるなと中韓の恫喝に屈しつつあるようだし、それへの反発が今起きている『マンガ嫌韓流』のマツリであろう。韓国は自国民も北朝鮮に拉致しているのにそれを無視する非道国家である。いくらなんでもヨン様だのチェ・ジウだのに責任はないにせよ、でも韓国ブームとして仕掛けられたこの状況の中、韓国のもつどうしようもなさはかえって親しみを持って韓国に接近した日本人を失望に落としてしまっている。これまで無知から韓国はなんか面倒な国だったのだが、知ってしまったらとんでもない国だったのだ。
 その国の背後の中国というもっととんでもない独裁国家も、これも中国市場と中国経済という面で親しみをもって近づいたらとんでもない反日教育。ここでも日本人はこういった隣国のとんでもなさに直面している。
 そのとんでもなさがなぜかスルーされようとしている。国民は苛立っている。もし6カ国協議の結果がひどかったら、日本人はどうなるかわからない。
 まさしく明治時代の三国干渉とポーツマス条約の結果の日比谷焼き討ちと同じことが起きるかもしれない。『坂の上の雲』では日露戦争が描かれたが、その結論は余りにも少ない成果を押しつけられたポーツマス条約であり、それに国民は憤って警察署や内務大臣邸を焼き討ちした(後補・国会議事堂が焼失したのは別の理由だそうです)。そして、その不満は変化していって大日本帝国としての一体感から傲慢さとなり、結果貧乏なのにやりくり戦争を始め、太平洋戦争へ至るのだ。
 まさしく、そういった日本の負けパターンを防ぐためにこそ、今回解散総選挙を期待する。妥協政党の妥協外交にはもううんざりである。まさしく平成維新の断行を巡って、まさに国民の審判で妥協に終止符を打つべきなのだ。
 覚悟の人、亀井静香小泉純一郎。どちらも失いたくない人だが、しかし一つの時代を終わらせるためには、払わなければならないリスクだろう。
 だが、そのアンヴィヴァレントさに、故・永岡議員は苦しんだのだろう。
 重ね重ね痛ましい。だが、我々は彼の苦しみと悲しみ、死を無にしないためにも、政治に関心を持ち、傍観者的態度ではなく、旗幟を鮮明にせねばならないと思う。