容疑者室井慎次

 気になっていたのだが、とうとう夢に出てしまった。しかもその夢が私の脳内アルゴリズムで整理されて本当の映画のように起承転結がついていた。まあこれと映画版は違うだろうけど、気になるので今日ユキさんと映画を見に行く。
 今回の監督・脚本の君塚さんを信頼しているのだけど、まず問題とされる特別職公務員うんちゃらという容疑名。
 これは新宿北署の刑事たちがおとがめ無しなのも絡めて考えると、特別職公務員の中には自衛隊員もあるので、自衛隊での話から類推すると、末端の捜査員・隊員は出動した場合、起きている事象の全体の状況を自分で判断し、自分で何が犯罪かを判断することができない。状況を把握できる指揮官に従うことしかできず、責任はこの場合法的に指揮官(警察の場合管理官)にあり、末端は免責されたような気がする。
 そして共同正犯の場合も、この場合は指揮官にのみ責任を問うのは過大であるため、警察全体にも管理責任を問う可能性があるし、あるいは捜査員の責任も問うのかも知れない。
 第60条 2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
 で、被疑者の片方が死亡しているとか。

 まあ、とはいえ私自身君塚ワールドにドップリ浸かっているので判断は間違っている可能性は多分ある。君塚さん自身、踊るTV本編で真下(ユースケのやっていたキャリア警察官)が試験を受けることになっているところとかは無理をしている。キャリア警官は基本的に警部補からスタートで無試験で警部になれるらしいし、また試験勉強をさせるなら普段暇な機動隊に配置するだろうとか。
 でも、君塚さんの書きたいことは別にあるんじゃないかなあ。実は本編映画2(レインボーブリッジを封鎖せよ)を久しぶりにまた見て、ああ君塚さん材料を処理しきれなかったなという感じを持った。トップダウン形の組織からクラスター形の組織へと言うのは米軍でも行われている戦術ネットワークの話で、そこらへんから所轄・本店の垣根を取る方向へと向けたかったんだけど、時間もなんもかんも足りなかったのだろうなと思うし、『交渉人』では犯罪がユビキタス化するというか、誰もが何かに苛立ち、その苛立ちのはけ口を求めているためにバイ菌のように意図不明の犯罪が起きるという世の中で、警察官はそういった身勝手に対しても、ただひたすら耐えるしかない悲しい存在であることを書こうとしていたが(とは言っても脚本は別の人で、君塚さんは原案になっている)、まあこれも踊るワールドのファン以外には不満を持たれたところかも知れない。
 だが、考えてみれば映画館に行く人には二つある。現実には有り得ないカタルシスを代わりに映画で味わいたい人と、現実にカタルシスはもう有り得ないけれど、その有り得ない苦しさを共有して、それをカタルシスとしたい人。
 私は後者である。映画の中でいくらスカッとしても、帰るその足から現実が突きつけられるのだ。映画を見終えて映画館の外で、映画の前に切っておいた携帯の電源を入れると仕事の携帯が即座にかかってきて頭を下げたり失敗を後悔したり自らの無力を痛感させられたりするのが私の現状なのだ。
 いつもそれを考えて、純粋に映画やテレビを見たことはない。これの作劇の方法論はとかここでモーメントを作ってとか、そういう見方をして自分の仕事に生かそうとしてきた。そのなかで、無力感を感じてきた。
 お客様、という。見るだけの人は、アレとアレとではあっちがいいとか、★いくつとかつけたりしている。でも、どんな作品にも、絶望的な現場で自分だけでもと奮闘した人がいるのだ。そうでなきゃ作品は世の中に出ない。だが、よくある話だが経営上の都合とか、無能な経営陣が『火星人と言ったらタコ足だろ』みたいな横やりを入れて、当初の志が傷つき、だんだん妥協の産物になっていく。妥協のない作品を一度で良いから作ってみたいと誰もが思う。作り手の頭の中には、妥協のない作品というのがあるのだ。神さまの作った作品が。まるで仏師が木の中から仏を掘り出すように、仏が木の中に入っているのは分かっている。でも、手が追いつかない。その手が追いつく以前に、手が追いつかなかった作品でもう手を発揮する機会は失われる。ほとんどの作り手がそういう運命をたどるのだ。
 
 話が逸れたけど、カタルシスを他人に求めるのなら、それで良いと思う。気持ちよくしてくれよ、もっと、もっとと要求する。金を払っているのだからと言う。それは正しい事だと私は思っている。
 でも、私には中途半端にどっちも分かってしまうから、安易なカタルシスよりも、作り手としての共感を最大のカタルシスに感じてしまうのである。
 その点、題材の処理仕切れ無さは不満として残しても、カタルシスとしてどうかは人それぞれのような気がする。
 まあ、私は信者ですから。『交渉人』でも結局あのクモの走りっぷりと地下鉄パニックで満腹してましたから。
 別に見て欲しいとか、見なきゃダメだなんて訴える気はない。ただ私はそれが好きなのだ。
 しかし、それでも冷静さを失ってしまうような某神盾艦小説なんてのもありますが。防大生はもっとまともだよ。三島由紀夫の表面的なモノマネかと思っちゃったよ。それにしちゃあんまりだ。