原風景

 時代が変わって、私の記憶の風景も過去のものになっていく。
 たとえば駅の切符切り。今は自動改札かスタンプになってしまったけれど、昔は専用のハサミで切っていた。駅の音と言えば、改札でハサミをチョンチョンと切る鋭い音だった。今の若い人は知らないかなあ。
 とはいえ私もギリギリで旧客(旧型客車)に乗れた程度の世代なので、微妙に中古の世代。50系客車にもよく乗ったし、そのころ箱根登山の箱根湯本と小田急新宿のホームエンドに3100形NSE・3000形SE用の五角形のアクリルの愛称板が一杯集めてあって、駅の掛員が手作業で取付取り外しをしていたなとか、そこら辺の記憶を思い出す。
 20系寝台車も乗ったなあ。寝台特急〈あけぼの〉の上野−秋田間。闇の中、銀色の大地を急ぐ機関車のヘッドライトの輝きが一瞬曲線で見える。あのころは秋田新幹線山形新幹線もなく、〈あけぼの〉は出世した秋田県人が帰郷に使う凱旋列車だった。
 空へ駆け上る鋭い警笛、流れ去る漆黒の杉林。良い思い出。
 ちなみに某駅を深夜利用したところ、若い駅員さんが並ぶ自動改札機を見ながらあのハサミをいじっていた。
 つい嬉しくなり、『まだあったんですね』と伺うと、『ええ、残してあります』と駅員さんは微笑みながら答えてくれた。