クジラの彼 

 

クジラの彼

クジラの彼

 『クジラの彼』を読んでた。面白かった。特に表題作は秀逸の極み。甘いラブストーリーながら、それが自衛隊という舞台が半分はいるだけでこんなにきついバージョンになるとは。確かに潜水艦乗りのカレシじゃ、電話しても電話つながらないし、入港した時しか会えないし、潜水艦のクルーズといったらうんヶ月単位。きついわー。
 冬原春臣という潜水艦のカレシの名にもちゃんと仕掛けがあるし、携帯電話の不通表示の違いとか、ホントよく書いてある。いい仕事である。
 『脱柵エレジー』なんかもいい味だし、『ロールアウト』は地味な話題かと思わせつつ、そういや同じ重工の作った飛行機の戦中と今じゃ状況違うよな、と思うようなところと、何と言ってもカタルシスがすばらしい。
 細かく見ると、ジェンダーの話になっていたり、人間の成長の話になっていたりと、実に作品世界が豊かである。たった6編の短編集なのにしっかり笑わせて泣かせる。やっぱり本屋大賞の腕はだてじゃないなあ。
 全体的な繊細さがなんかどっかで見た空気だなあと思ったら女性の作だった。こういうのを女性は書きやすいのかも知れない。一番最後のイーグルパイロットの話はその点で男性が得意とする題材なのではと思ったが、良く書けている。決して思いつきに終わらない構築の深みとか、大変勉強になった。『図書館戦争』のほうもそのうち読んでみよう。
図書館戦争

図書館戦争