いのちの名前/平原綾香
- アーティスト: 平原綾香
- 出版社/メーカー: ドリーミュージック
- 発売日: 2005/09/28
- メディア: CD
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この人は、本当に恵まれていると思う。声量に若干難があるものの、歌詞とメロディに恵まれている。これで声量がもっとあれば神さまなのだが、まあ神さまばかりじゃ世の中は成立しないわけで、それでも神ではないものの、十分満足すべき段階だと思う。
すばらしい。
今、一般的にCDが売れないなんて言うけど、数分でダウンロードできる物をわざわざ出かけて店に行って探して買うユーザーがどれだけいると思っているのか、さらにそのユーザーがタダだからというだけでダウンロードやコピーをしていると思っているのか、SONYにはどこまでそれを考えているのか問いただしたい。
あんたたち、時代に即していないよ。SONYの著作権保護のソニックゲートだって、あんたたちまだベータビデオの失敗から学んでいないのかと思う。世の中みんなWindowsマシンを使っているわけじゃないんだし。iTmsに参加すればそれだけで良いのに。そういうケチな了見だからスパイウェア容疑で騒がれるんだよ。
で、平原綾香『いのちの名前』なんだけど、これでもっと高音域の声量があればと思うのは、繰り返し過大な要求だなと自分を反省する。とはいえ、当人ボイストレーニングをしていない我流を売りにしているようだけど、ちゃんとトレーニングしたほうがいいと思う。そんなことにこだわっちゃイケナイと思うんだけどなあ。
久石譲サウンドに歌詞を載せるというのは正直、昔インスツルメンタル原理主義だった私ではあっても、今は何でも突き詰めていく上で『王道も邪道もない』と思うようになり、あらためて楽曲は歌詞とメロディ、リズムの総合芸術だなと思う。
『いのちの名前』の歌詞は、その上で『ジュピター』以来の平原ワールドが成長し、ますます扱うイメージが豊かになってきている気がする。特に『千と千尋』でも切なさ爆発だったこの曲に歌詞が乗る絶妙さ。
季節は過ぎ去っていく夏。青空に線を引く飛行機雲の白さは、の時点で既にもうワールド突入。でも決して安作りのライトノベルやエロゲーの一部がやってる切なさ系とは一線を画す、大人でありながらまだ未来を信じている人々の、ふっと仕事がとぎれて思い返す夏の風景のような世界。
美しい水彩画、というより、やっぱりあの千と千尋の水に沈んだレールを走っていく気動車のシーンの美しいCG応用のセル画が思い浮かぶ。あのシーンは、あれだけでも十分ごちそうであった。それを忠実に歌詞に起こして、音だけで絵が浮かぶ。
いわゆる大人はもう疲れて想像力を働かせる余裕が無いと言うけど、でもちゃんと想像できる人はいる。
そういう想像力を失わずに大人になった人々がどれだけいるか。猫も杓子も買うような曲ではないけれど、でも猫も杓子もいずれどこかへ行ってしまう。しかし、こういう想像力と想像力で結びつきあったクリエイターとユーザーは、魂でつながり、決して表面上の何かの出来事で離れることはない。
そういう関係が、『ジュピター』以来、平原さんにはあると思う。羨ましい。正直嫉妬したくなるけど、曲の美しさにそれも忘れる。
すばらしい。