プリンセス・プラスティック・プレミア


 エースアクティブ6もがんばりましたが、何と言っても今は幻となった『プリンセス・プラスティック・母なる無へ』の復活版販売中。

『シファたちが起工されてから二年後、計画が立案されてから十年後、二一三六年一月十一日十時三二分』

 研究所中央操作室で、幾つものプレートが浮かぶ中、宮山がUCFのコントロールブースに座って翼を広げた武装姿のミスフィを遠隔制御している。
「シファ、空力系のチェックをもう一度する。ミスフィを追尾させるから、エアブレーキを開いて右にダイブし、岩山の峰をかすめるコースを飛べ」
 宮山が飛翔するシファに指示する。
 もうシファたちの心は使われないことになっていた。しかし、宮山はせっかく育てたシファが不完全なまま放置されるのを見るに忍びなかった。だから、決定が下された後もこうしてシファに空中機動の実際を教え込んでいるのだった。
 それは宮山の気持ちの問題だった。
「シファの接続率が十パーセント低下!」
 オペレーターが告げる。
「ネイバルレベルさえ接続されていれば飛べる。訓練を継続する。シファ、指示に従って……」
 シファが翼の先から白い水蒸気の筋を引いて旋回し始めたその時だった。
「警報! ミスフィUCFとのリンクが弱まって……たった今、途絶しました!」
「まさか!」
「リンク復旧を急げ!」
「ミスフィが変針し始めました! 針路〇−八−一、研究所南地区を目指しています!」
「UCFが……暴走した?!」
 オペレーターたちが忙しく報告し合うなか、宮山は絶句する。
「シファ、ミスフィを追え!」
 そして、急いでシファに対して、命令を下す。
「ミスフィが!」
 研究所中操のメインプレートにミスフィの姿が大写しになる。
 ミスフィの身体の前に青白い光が集まっていく。
「!!」
 そこから放たれたビームは砂漠を薙ぎ払い、リング状のワームホール穿孔用加速器リングの南、研究所南地区を直撃した。
 猛烈な爆発が起き、対消滅反応の輝く火柱が天を突く。
「全研究所防御態勢、防御PUシールド展開!」
「全所員、地下避難壕へ!」
「ツーランから戦闘機を呼べ!」
「2航艦、3航艦を全機こっちに回して貰うんだ、急がないと大変なことになる!」
 その時、真っ白い壁となって衝撃波が中央操作室を走った。
 上がる悲鳴、絶叫。
 中操正面と天井が無くなって空が見え、そこに紅い狂気の瞳でミスフィが浮かび、倒れたスタッフ全員を見下ろしていた。
 宮山がミスフィを見上げる。
 それとミスフィの視線が合った。
 宮山は全く動じない。
 全員が言葉もなく、降臨したミスフィを見上げていた。
 慌てて指揮官・宮山の周りを、武装した警備の隊員たちが囲み、ミスフィに向けて銃口を向ける。しかし、その程度の武器ではミスフィに効果はない。
 相手は戦艦だ。
 そこに、シファがみんなを守るように舞い戻り、ミスフィの周りへ威嚇射撃して、注意を引こうとする。
 空中に浮上したまま、シファとミスフィは見つめあう。
 ミスフィは一度翼を羽ばたかせると、現れたシファを追って上昇していった。
 シファはミスフィに追われながら研究所を離れようと苦闘する。完全に接続されていないワームホールは使おうとするだけでシファに激しい苦痛を引き起こす。激痛の嵐の中、シファは翼を使い低空を這うように、ミスフィを引き付けて逃げ回る。
『シファ、ミスフィを撃墜するんだ!』
 宮山はシファに告げる。
「本当ですか!」
 シファは信じられなかった。
『今のミスフィはミスフィじゃない、UCFに乗っ取られているんだ! これ以上ミスフィにまちがいを起こさせてはならない、急げ!』
「そんなこと……出来ない、私には出来ない、絶対に出来ない!」
 シファはミスフィに追尾され、砲撃を浴びせられながらもPUシールドを張って耐え、ミスフィとの交信を図ろうとしてかプレートを開いた。
 その一瞬の隙をミスフィが突き、シファに飛びかかる。至近距離に入ったことによって二人をそれぞれ包んでいたPUシールド同士が反応を起こし、虹色の閃光が舞い散る。しかし、PUシールドは押しつけられても破れない。二人の中間で境界膜を作ってPUシールドはねばり強く抵抗する。
 ミスフィは空中から光り輝くプラズマの剣、ロングバイヨネットを取り出し、シファに剣筋も鋭く斬りかかった。この剣は高密度の磁束を持っている強烈なもので、シファたちの装備する強力なPUシールドさえも突き破れるのだ。水晶の柄の中には太陽と七惑星が回る装飾が施されている。ミスフィはそれを見せつけるように振り回し、突き立てる。
 まるで、意志があるように抵抗する境界膜を突き破り、剣先がシファに襲いかかる。
 シファもプラズマの剣を取り出し、寸前でかわす。
 プラズマの刀身同士がぶつかりあい、激しく虹色の輝きが散る。
「ミスフィ、嘘でしょ! 私とあなたはこの世界でただ二人の姉妹じゃないの! 何故こんな風に争わなければならないの! 返事をして!」
 シファは叫ぶ。しかし、ミスフィは目を見開いたまま口元に苦い笑みを浮かべ、シファを追い詰める。二度、三度と剣を交え、シファとミスフィはついに鍔で競り合うところまで近付いた。
 接近するシファとミスフィの顔。
 ミスフィはこの剣劇を愉しんでいるかのように口の端で笑う。
 その瞳の奥には狂気の輝きが宿っている。
「何故戦うの! 私たちだけは……私たちだけは最後まで剣を交えなくて済むと思ったのに!」
 シファは青い銃火で至近距離から威嚇射撃しつつ後退し、間合いを取ると翼を翻して低空飛行で逃げた。
 それをミスフィは上空から連続砲撃して追いかけ回す。
 シファを逸れて流れたビームが、秘密人工都市とも言うべき研究所施設を次々と無惨に破壊していく。
 研究所を守っているPUシールドもミスフィの強大な火力の前には抗しきれない。
 ビームを受けたシールドは、しばらく虹色に輝いてそのエネルギーを全体で受け止めようとするが、耐えきれずシールドを構成するピクセルが弾け、煌めきながら散っていく。
 そして、そのPUシールドに守られていた建物がビームに焼かれて大爆発を起こす。
 地上高二百七十メートル、八十階建てのミラーガラスの高層ビル・第一研究棟の陰にシファが入る。
 ミスフィはその建物に向けてビームを放った。
 ビームがビルを貫通し、建物の中央に大穴が空き、ミラーガラスが衝撃波で一斉に砕け散る。ガラスの破片がキラキラと降り注ぐ中、その破口の先にシファが出た。
 ミスフィはその彼女に向けてなおも砲撃を続ける。
 逃げるシファを捉えようとミスフィが振りかざしたビームが、隣の第二研究棟、地上高二百メートル・六十階建てのツインタワーを袈裟掛けに灼き斬った。
 ツインタワーは二つの建物の頂上を結ぶ空中庭園ごと轟音とともに崩落していく。
 シファは超低空に降り、居住棟地区、五十階建ての高層マンション群の隙間に入った。ミスフィは立ち並ぶその十六棟のマンションを一撃のビームですべて貫き、灼き尽くす。爆発は炎の壁を作って広がり、停めてあった電気自動車を吹き飛ばしつつ研究所中央地区を一斉に焼き払っていく。
 シファはなおも逃げ続ける。
「ミスフィ、あなたとだけは……戦いたくなかった!」

 つづきはこちら。
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