宇多田ヒカル『KeepTryin'』

 

Keep Tryin’

Keep Tryin’

いやー、宇多田色だわ。ホント。
 宇多田も普通のアーティストなんだろうかと思ったけど、歌詞の作り方、メロディーラインとか、やっぱり超一流。突き抜けている。
 『Traveling』で『最近不景気で困ります/閉めます/ドアに注意』なんていう歌詞回しを使って全体の趣向をポップに、それでいて『止まるのが怖い』につながる独特の感覚。歌ネットのレビューでは高みから高みを歌っている、等と揶揄されていたが、いやそれで良いんですよ宇多田は。高みから高みを歌う人も必要だし、第一高みは地べたにいる我々から見上げれば良く見えるじゃないですか。いいんですよ。
 で、その感触とは初期の『Wait&See〜リスク〜』や『First Love』の淡さとはまたちがって、それもまたいいんだけど、『SAKURAドロップス』以降、『COLORS』に到るところで高みを意識しすぎた気がする。いやそれはそれでアーティスト個人の生きていく文脈なんで、経過しなければならないところだと思うけど、でもちょっと普通のアーティストになっていくのかな、と逆に切なかった。
 宇多田は始めから違いすぎた。ファーストアルバムを本厚木駅の通路に屋台を作ってHMVの店員が売るぐらいで、しかもゲームミュージック専門だったはずの私でさえ買ってしまうバケモノぶりだった。
 だが、段々普通かな、と思いつつあったのだけど、きっちり戻してきました。
 この『KeepTryin'』はまずメロディーラインが良い。独特の音感がたまらない。au携帯の『Lismo』のCFキャンペーンだったけど、この一度聞いたら耳から離れないフワフワ感がよい。高音への抜け、フワフワと踊るメロディー。
 本当に上質の音楽は、ある意味快くて眠くなってしまうものがある。子守歌なんかもそうだけど、オーケストラや宝塚歌劇も、お金払ったんだからしっかり見ようと思いつつ、結果うたた寝に近くなってしまう。眠りから起きる寸前の夢を見るような感触。やっぱりそれは良い音楽として、脳波に快い波が生まれるからなんだろうと思う。
 歌詞も良い。独特の生活感。『光』のプロモではユキさんと一緒に『宇多田ちゃん、紀里谷さんの奥さんになってお皿を洗うのは良いけど、その洗い方だと洗えてないよ!』みたいにツッコんだけど、そういう非現実的な生活感が、逆に現実の生活をうまく昇華させて、微妙な単純な共感とも違いながら、それでいながらちょっと親しみを感じられるところに行き着く。実に良い。
 ちなみにこの曲はiTmsで曲を買い、歌ネットhttp://www.uta-net.com/で歌詞を見ている。今時標準CD、CD-DAなんて陳腐化したフォーマットを使い続けている音楽業界は斜陽になって当たり前だと思う。CD-DAでしかもマキシシングルと称してガバッと容量の余ったCDに歌詞やジャケットをtextで入れる知恵も手間はかけないくせに普通に曲を聴くのさえおかしくするプロテクトをかけてしまう業界は衰退して当然である。わざわざ買いにショップに行って、家に帰ったらプロテクトで再生できない、再生できてもジャケットは未だに紙っぺら、ケースもいつの間にか簡略化。安易に儲けようと言う発想が崩れて利益を守るために利益を失う悪循環。
 そこでやっぱりiTmsは偉大だと思う。AppleMicrosoftも嫌いだけど、この両者、本業とはちょっとずれた変なところが得意なんだよなあ。AppleiPodとかiTmsとか。Microsoftはキーボードとかマウスが凄く使いやすい。うちはキーボードはナチュラルキーボード、マウスは5ボタンのインテリマウスオプティカル、全て有線で使用中。コードレスは電池切れになったりするのがモノスゴクいや。
 歌ネット、会員登録するとその先で歌詞がHTMLテキストで表示されるけど、これJASRACがオーケーしているんだろうか。他のサービスで必死にセキュリティをやってコピーとかできないようにしていたけど。この歌ネットの方が便利だけど心配になる。このまま使えると良いんだけどなあ。