桜砧忌
もう一年経ったのか、砧大蔵さんが亡くなってから。
優しい人だった。当時私は慢心の嫌いがあったのだと思い返す。
互いに忙しいながら、互いを認め合っていた。
でも、向こうの方がずっとキャリアが上。それに対して私はずいぶん出過ぎたことをしていたなあと思う。
しかし、それでも優しく受け止めてくれた。度量のある人だった。
今思えば、砧さんのために私ができたことが、まだあったんじゃないかと思う。
ただ、私の書く小説とは違って時間は不可逆で、今から思ってもどうにもならない。
お香を焚いて砧さんを偲ぶ。
情熱もあったけど、それ以上に優しい人だった。
情熱だけではやっていけない。
優しいだけでもやっていけない。
この稼業のその苦しさを、さらりとうちあけながら、それでもしっかりと先輩として先を行ってくれていた砧さん。
良い先輩だった。
私は、また取り残されてしまった。